北朝鮮の核実験やミサイル発射等にも見られるように大量破壊兵器や通常兵器の拡散は大きな国際問題となっています。こうした中で、我が国は、我が国の安全保障と国際的な平和及び安全の維持の観点から、大量破壊兵器や通常兵器の開発・製造等に関連する資機材並びに関連汎用品の輸出やこれらの関連技術の非居住者への提供について、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」(がいためほう)という。)に基づき、必要最小限の管理を実施しています。
したがって、外為法で規制されている貨物や技術を輸出(提供)しようとする場合は、原則として、経済産業大臣の許可を受け
る必要があります。 外為法に基づく規制は、化学兵器禁止条約等の条約に基づくものと欧米先進諸国等が中心となって参加する国際的な輸出管理に関する合意(※国際輸出管理レジーム)等に基づき実施されています。
現在、我が国の安全保障輸出管理制度は、これらの国際合意等に基づき、主に①炭素繊維や数値制御工作機械などある一定以上のスペック・機能を持つ貨物(技術)を輸出(提供)しようとする場合に、原則として、経済産業大臣の許可が必要となる制度(以下「リスト規制」という。)と②リスト規制に該当しない貨物(技術)の貨物(技術)を輸出(提供)しようとする場合で、一定の要件(インフォーム要件又は客観要件)を満たした場合に、経済産業大臣の許可を必要とする制度(以下「キャッチオール規制」という。)の2つから成り立っています。
※国際輸出管理レジーム=原子力供給国会合(NSG)、オーストラリア・グループ(AG)、MTCR(ミサイル関連機材・技術輸出規則)、ワッセナー・アレンジメント(WA)をいう。
外為法第48条第1項に基づき、特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物を輸出しようとする者は、経済産業大臣の許可(輸出許可)を受ける必要があります。特定の仕向地や特定の種類の貨物については、政令である輸出貿易管理令(以下「輸出令」という。)の別表第1で、大枠が定められています。
技術の提供を目的とする取引については、2009年11月1日施行の改正外為法により、2つの場合が規制されています。まず、①外為法第25条第1項(前段)に基づき、特定の種類の貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術(以下「特定技術」という。)を特定の外国(以下「特定国」という。)において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者は、経済産業大臣の許可(役務(えきむ)取引許可)を受ける必要があります。
次に、②外為法第25条第1項(後段)に基づき、特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者は、経済産業大臣の許可(役務取引許可)を受ける必要があります。なお、2022年5月1日から、居住者が特定類型該当者に特定技術を提供する場合も役務取引許可が必要です。特定技術や特定国については、政令である外国為替令(以下「外為令」という。)の別表で、大枠が定められています。なお、外為法第25条第1項を補完するため、経済産業大臣が必要があると認めた時に、外為法第25条第3項第一号に基づき、特定記録媒体等輸出等許可を受ける義務を課すことがあります。
たとえば、リスト規制に該当する技術は、国内であっても非居住者に提供する場合は役務取引許可が必要です。 |
輸出令別表第1(外為令別表)の1の項から15の項に該当する貨物(技術)をリスト規制貨物(技術)といいます。リスト規制は、専ら貨物や技術の機能や性能(スペック)に着目した規制です。具体的なスペックや機能は、輸出令別表第1(外為令別表)の1の項を除き、経済産業省令である「輸出貿易管理令別表第1及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」(以下「貨物等省令」という。)で規定されています。スペックを満たすリスト規制該当貨物(技術)を外国に輸出(提供)する場合は、原則、経済産業大臣の許可が必要です。たとえば、東京にある会社が、アメリカにある子会社に輸出令別表第1の3の項(2)に該当するポンプ1セットを輸出する場合であっても、経済産業大臣の輸出許可が必要です。逆に輸出令別表第1の3の項(2)に該当しないポンプをアメリカに輸出する場合は、輸出令第5条により税関にリスト規制に該当しないことを証明する書類等(非該当証明書、項目別対比表、パラメータシート等)を提出する必要があります。
(2)リスト規制貨物(技術)の内容
①武器関連=武器輸出三原則・一部ワッセナー・アレンジメント→輸出令別表第1(外為令別表)の1の項
②大量破壊兵器関連=輸出令別表第1(外為令別表)の2~4の項
・条約関連=核不拡散条約(NPT)・化学兵器禁止条約(CWC)・生物兵器禁止条約(BWC)
・核兵器関連=原子力供給国会合(NSG)→輸出令別表第1(外為令別表)の2の項
・化学・生物兵器関連=オーストラリア・グループ(AG)→輸出令別表第1(外為令別表)の3の項・3の2の項
・ミサイル関連=MTCR(ミサイル関連機材・技術輸出規則)→輸出令別表第1(外為令別表)の4の項
③通常兵器関連=ワッセナー・アレンジメント(WA)→輸出令別表第1(外為令別表)の5~15の項
リスト規制の対象になる技術には、技術資料又はソフトウェアの提供、技術者の受入れ又は派遣を通じた技術支援等も含まれます。 なお、リスト規制に該当する技術は、リスト規制該当貨物に関する技術だけではなく、リスト規制に該当しない貨物の技術も一部規制していますので、注意が必要です。
(3)リスト規制対象地域
武器、大量破壊兵器等の関連資機材及び通常兵器関連汎用品の規制は、大量破壊兵器等の拡散を防止すること及び通常兵器の過剰な蓄積を防止することを目的としていることから、規制対象地域は全地域となっています。特に国際的な懸念がある地域として、イラン、イラク、北朝鮮が輸出令別表第4の地域として規定されています。
輸出令別表第4の地域(懸念国) :イラン、イラク、北朝鮮の3カ国をいう。
キャッチオール規制は、湾岸戦争終了後にイラクに対する国連等の査察の結果、イラクがリスト規制に該当しない製品を使用して大量破壊兵器の開発等を行っていた事実が判明したことから、導入された規制です。リスト規制と異なり、専ら需要者や用途に着目した規制です。したがって、リスト規制と異なり、貨物や技術が輸出令別表第1(外為令別表)の16の項に該当しただけでは、ただちに許可申請が必要になるわけではありません。以下に示すとおり、客観要件又はインフォーム要件のいずれかに該当した場合に許可申請が必要になります。キャッチオール規制は、現在、(1)大量破壊兵器キャッチオール規制と(2)通常兵器キャッチオール規制が実施されています。キャッチオール規制は、リスト規制を補完していることから、補完的輸出規制ともいいます。
(1)大量破壊兵器キャッチオール規制とは
① 規制対象貨物・技術
大量破壊兵器キャッチオール規制の対象貨物(技術)は、輸出令別表第1(外為令別表)の16の項に掲げられており、原則、リスト規制貨物以外の貨物(技術)です。ただし、食料品、木材等のおよそ大量破壊兵器の開発等とは関係がないと考えられる一部の品目(技術)はキャッチオール規制から除かれます。
② 許可申請が必要な場合
大量破壊兵器に関するキャッチオール規制においては、①規制対象貨物(技術)の輸出(提供)であって、次に掲げる要件に該当した場合に許可申請が必要となります。
イ 客観要件・・・・・大量破壊兵器キャッチオール規制には、客観的な要件として用途要件と需要者要件があります。
輸出者が、契約書や当該輸出に関し入手した文書及び記録媒体又は当該輸入者や需要者若しくはこれらの代理人からの連絡により、以下の(a)又は(b)の要件に該当する場合、客観要件に該当し、許可申請が必要になります。
(a) 輸出する貨物(技術)が核兵器等開発等省令(※注1)の第一号及び核兵器等開発等告示(※注2)の第一号に該当する場合(用途要件)
例:中東にあるA国から輸出令別表第1の16の項に該当するポンプ100セットの引き合いを受けたので、用途を尋ねたらVXガスやサリン製造に使用すると連絡を受けた。
(b) 輸出する貨物(技術)が核兵器等開発等省令の第二号、第三号又は核兵器等開発等告示の第二号、第三号に該当する場合(需要者要件)
例:経済産業省が公表している外国ユーザーリストに掲載されている企業(懸念用途は、ミサイル)から、輸出令別表第1の16の項に該当する大型クレーン車10台の引き合いを受けた。
(c) ただし、(b)の需要者要件は、貨物(技術)が核兵器等の開発等及び核兵器等開発等省令の別表に掲げる行為以外に用いられることが明らかなときは除かれます。詳しくは、「大量破壊兵器等及び通常兵器に係る補完的輸出規制に関する輸出手続き等について」の1(6)「輸出者等が「明らかなとき」を判断するためのガイドライン」をご覧ください。
例:経済産業省公表している外国ユーザーリストに掲載されている企業(懸念用途は、核)からの引き合いであっても、その企業の自転車を製造している工場からのもので、明らかに自転車用のブレーキの部品ということであれば、許可申請は不要です。
ロ インフォーム要件
輸出される貨物(技術)が大量破壊兵器等の開発等に使用されるおそれがあるものとして、経済産業大臣から輸出許可・役務取引許可の申請をすべき旨の通知を受けたとき
例:貨物の場合は、貨物が輸出される前までに経済産業大臣から輸出者宛(法人の場合は、代表権者)に直接、当該貨物について輸出許可申請をするように文書等で連絡があります。
③規制対象地域
輸出令別表第3に掲げる地域を除く全地域。輸出令別表第3の地域に掲げられている27ヶ国は、輸出管理に関する国際的な条約及び4つの国際的なレジームに参加し、キャッチオール規制を厳格に実施している国であることから、規制の対象外とされている。なお、輸出令別表第3に掲げる地域は、通常兵器キャッチオール規制でも規制の対象外である。
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルグ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国の27カ国をいう。 (2024年1月現在)
(※注1):輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令
(※注2):貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条第2項第七号イの規定により経済産業大臣が告示で定める提供しようとする技術が核兵器等の開発等のために利用されるおそれがある場合
(2)通常兵器に関するキャッチオール規制とは
大量破壊兵器を除いた通常兵器に関するキャッチオール規制は、仕向地(提供地)によって、許可申請の要件が異なります。通常兵器キャッチオール規制は、大量破壊兵器キャッチオール規制と異なり、客観要件は用途要件(※注1:通常兵器開発等省令、※注2:通常兵器開発等告示)のみです。
①輸出令別表第3の2の地域(国連武器禁輸国・地域)の場合(イ及びロの条件を満たす場合、許可申請が必要)
イ 規制要件:インフォーム要件 or 客観要件(用途要件のみ)
ロ 規制対象貨物(技術):輸出令別表第1(外為令別表)の16の項
例:国連武器禁輸国のコンゴ民主共和国にある貿易会社から、輸出令別表第1の16の項に該当する鉄の鋼材10トンの注文があったので、用途を確認したところ、戦車を製造すると電子メールで連絡を受けた。
(※注1):輸出貨物が輸出令別表第1の1の項の中欄に掲げる貨物(核兵器等に該当するものを除く。)の開発、製造又は使用のために用いられるおそれがある場合を定める省令
(※注2):貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条第2項第七号ハの規定に基づく経済産業大臣が告示で定める提供しようとする技術が輸出貿易管理令別表第1の1の項の中欄に掲げる貨物(同令第4条第1項第一号イにおいて定める核兵器等に該当するものを除く。)の開発、製造又は使用のために利用されるおそれがある場合
②輸出令別表第3の地域以外で、輸出令別表第3の2の地域(国連武器禁輸国・地域)以外の場合(イ及びロの条件を満たす場合、許可申請が必要)
イ 規制要件:インフォーム要件
ロ 規制対象貨物(技術):輸出令別表第1(外為令別表)の16の項
例:台湾の企業から、輸出令別表第1の16の項に該当する数値制御工作機械10台の注文を受けたので、輸出の準備をしていたところ、経済産業省から、経済産業大臣名で輸出許可申請を行うよう代表取締役宛に文書で通知があった。
輸出令別表第3の2の地域 (国連武器禁輸国・地域)
アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダンの10カ国をいう。
外国相互間の貨物の移動を伴う貨物の売買に関する取引について、以下の場合は、事前に経済産業大臣の許可が必要です。仲介貿易取引規制は、外為法第25条第4項(外為令第17条第3項)に基づき実施されています。
(1)輸出令別表第1の1の項(武器)に該当する貨物の外国相互間の移動を伴う当該貨物の売買、貸借又は贈与に関する取引を行うときは、全地域において、経済産業大臣の許可が必要。
例:東京にある貿易商社Aは、米国の武器メーカーからマシンガンを購入し、イスラエル陸軍に売却する契約を結んだ。マシンガンは、米国から直接、イスラエルに輸出される場合であっても、貿易商社Aは外為法に基づき、経済産業大臣の仲介貿易取引許可が必要である。
(2)輸出令別表第1の2の項~16の項に該当する貨物であって、大量破壊兵器等の開発等のために用いられるおそれがある貨物の外国相互間の移動を伴う当該貨物の売買、貸借又は贈与に関する取引を行うときは、当該取引に係る貨物の船積地域又は仕向地が輸出令別表第3の地域に掲げる地域であるものを除いて、経済産業大臣の許可が必要。
例:大阪にある貿易商社Bは、中国のメーカーから、輸出令別表第1の16の項に該当する中古のステンレス製の貯蔵容器の贈与を受けたので、アフリカにあるA国陸軍に貸与する契約を結んだ。その際、A国陸軍の担当者から貿易商社Bに当該貯蔵容器を使用して、サリンの開発・製造に使用すると通知をしていた。当該貯蔵容器は、中国からA国に直接輸出される場合であっても、貿易商社Bは、経済産業大臣の仲介貿易取引許可が必要である。
外為法第69条の6により、同法第48条第1項又は第25条第1項に違反して規制対象貨物の輸出又は技術の提供をした者は、以下のような懲役、罰金又はその両方が科されることとなります。その他、外為法第69条の7、第70条、第71条、第72条、第73条に規定がある。
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経済産業大臣は、外為法第25条の2及び第53条に基づき、同法に違反した者に対し、3年以内の期間を限り、一切の輸出、技術提供又は仲介貿易取引を禁ずるという行政制裁を科すことができることになっています。