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第37回 日本安全保障貿易学会 研究大会終了



  日本安全保障貿易学会第37回研究大会は、60名の参加者を得て2024年3月24日(日)に立命館大学 大阪いばらきキャンパスにて開催された。午前の自由論題セッションにて4件、午後のテーマセッション1にて2件の報告をいただいた。テーマセッション2は新たな試みとして座談会形式での討論とした。それぞれ現時点で関心の高いテーマであり、フロアからも活発な質問・意見が出された。


■自由論題セッションは4氏からご報告いただいた。

  1. (1)田村 晃生氏より「経済的威圧に対する懲罰的抑止は可能か?- ACIの有効性に関する議論 -」として、経済的威圧に対する懲罰的抑止の有効性について論じられた。経済的威圧に対する抑止の重要性はG7広島サミットでも言及されているが、その多くが拒否的抑止を想定したものである中で、EUが2023年12月に施行したAnti Coercion Instrument (ACI)は、経済的威圧に対する懲罰的抑止を目的としている点において注目すべきであるとし、EUによる中国に対する経済的威圧への抑止では、EUは中国に対して政治的意思を表明しつつ、disproportionateな形で経済的ダメージを与えることが求められるとした。
  2. (2)伊藤 正実氏より「役務通達の改定に対する大学のみなし輸出管理の対応状況について」として、令和4年5月から適用された特定類型に該当する居住者への技術提供に関する輸出管理の運用の実態について、自然科学系の学部を有する日本国内の大学に対し令和4年10月に実施したアンケート調査の結果とその考察について報告がなされた。アンケートの結果、規定や帳票の改定に関してはかなりの割合の大学が役務通達の改定に追随して対応がなされているが、運用に関しては十分とは言えない実態があきらかになったことから、丁寧なガイドラインの策定が必要とされるとした。
  3. (3)玉置 浩平氏より「経済安全保障時代の官民関係:外部性、ガバナンス、権力関係の視点から」として、国家と市場の間に存在する緊張関係を踏まえれば、安全保障の追求のために政府と企業が連携するという関係性は必ずしも自明のものとは言えないという問題意識の下、経済安全保障の要請の中で官民の非対称的な関係がどのように展開しているのかを探る糸口として、①外部性モデル、②ガバナンスモデル、③権力関係モデルという3つのモデルと、それぞれにおける官民連携の意義と企業実務への示唆について報告がなされた。
  4. (4)FRAU Francesco氏より「日本の外交・安全保障政策の進化の評価: 2014年の防衛装備移転三原則の変遷と戦闘機開発への影響の分析」として、Global Combat Air Program (GCAP)をテーマに、国際的な戦闘機プログラムへの日本の関与と、それが日本の外交・安全保障政策にどのような影響を与えるかについて考察した。日本企業が関与あるいは関与することを目指した過去の戦闘機開発プログラムであるFSXプログラム、F-2プログラム、GCAPを比較分析し、日本の外交・安全保障政策が日本企業の参加する戦闘機開発に及ぼす影響について、5つのパラメータに基づいて比較考察した結果が報告された。

■テーマセッション
●第1セッションでは「防衛装備三原則」を取り上げた。

  1. (1) 小木 洋人氏より「武器輸出規制の歴史的展開:武器禁輸規範の形成と変容」として、1976年の三木内閣における政府統一見解の策定経緯を中心に、日本の主要な武器輸出規制の強化や緩和の契機となった要因、政策過程および背景にあるマクロトレンドの考察が報告された。武器輸出規制は三木内閣においては与野党の議論の中でやや事故ともいえる形で憲法と結びつけて強化され固定化され、その後、防衛装備移転三原則により憲法規範からの切離しが模索されたとした。日本の武器輸出規制が厳格化あるいは緩和されるかは、国際的な武器需要の増減、武器輸出に関する国際的な規範の動向、そして日本を取り巻く安全保障環境に対する自らの認識の組合せに左右されるとした。
  2. (2) 西 正典氏より「武器輸出のあり方」として、政策的な観点から報告がなされた。今後激変するであろう安全保障環境を考えたとき、安全保障政策として友敵関係を正しく理解したうえで国家が武器をきちんと管理し、誰に向かって何のために売るのかを責任を持って判断し、産業界と調整することが必須とした。また、保守・運用も非常に重要であることから輸出するものは完成品である必要はなく、パーツ・コンポーネンツとそのサプライチェーン上のバックアップを考えるべきとした。そして、これら方針を考える上で現状の国際情勢の理解が重要であるとした。

●第2セッションは「安全保障貿易管理の新時代」と題し、田川 卓司氏、細川 昌彦氏を討論者に迎え、学会会長の鈴木 一人氏を司会兼討論者として、産官学それぞれの討論者による座談会形式のセッションとした。世界で様々な事象が起きている中で日本はどのように対応すべきか、安全保障貿易管理はどうあるべきかという視点から、米国の対中半導体規制、WAと同志国規制、レベルプレイングフィールド、インテリジェンスの重要性、対内直接投資規制、技術流出と軍事転用、産業政策と経済安全保障、サプライチェーンとチョークポイント等、非常に幅広い討論が行われた。今回初めての座談会形式の自由討論を行ったが、産官学の立場から非常に率直で有意義な意見が交わされ、会場の聴講者の反応も良く、成功裏に終了した。

■閉会挨拶(鈴木会長)

 本日は多くの皆様にご参加いただき感謝する。素晴らしい会場をご提供いただいた立命館大学、そしてその労を取っていただいた宮脇先生に深く感謝する。自由論題での4件の素晴らしい報告に続き、第1セッションでは防衛装備移転三原則について奥深く掘り下げていただいた。第2セッションは座談会という新しい取組みであったが、言いにくいところまでどんどん発言いただき、皆さんにも良い刺激になったのではないか。輸出管理の世界は新しい状況になってきており、論点が非常に広がっている。学会の活動はこれからも重要になってくると考えており、皆様のご協力をよろしくお願いしたい。

2024年4月
日本安全保障貿易学会 会長  鈴木 一人

 


日本安全保障貿易学会 第37回 研究大会プログラム

日時: 2024年3月24日(日)
   10:00~12:00 自由論題セッション
   13:00~14:20 第1セッション
   14:30~16:20 第2セッション
会場: 立命館大学(大阪/茨木市)
   大阪いばらきキャンパス C棟
   大阪府茨木市岩倉町2-150

■自由論題セッション   10:00~12:00

(1)田村 晃生氏(東京大学)
  「経済的威圧に対する懲罰的抑止は可能か?- ACIの有効性に関する議論 -」
(2)伊藤 正実氏(群馬大学)
  「役務通達の改定に対する大学のみなし輸出管理の対応状況について」
(3)玉置 浩平氏(丸紅(株))
  「経済安全保障時代の官民関係:外部性、ガバナンス、権力関係の視点から」
(4)FRAU Francesco氏(立命館大学)
  「日本の外交・安全保障政策の進化の評価:2014年の防衛装備移転三原則の変遷と戦闘機開発への影響の分析」

 司会討論者: 小野 純子氏(外務省(学会理事))
        土屋 貴裕氏(京都先端科学大学)

■テーマセッション

●第1セッション <防衛装備三原則> 13:00~14:20
(1)小木 洋人氏(地経学研究所)
  「武器輸出規制の歴史的展開:武器禁輸規範の形成と変容」
(2)西 正典氏(元 防衛事務次官)
  「武器輸出のあり方」

 司会討論者: 高野 順一氏(日本輸出管理研究所(学会副会長))

●第2セッション <安全保障貿易管理の新時代(座談会形式)> 14:30~16:20
 討論者: 田川 卓司氏(東レ(株))
      細川 昌彦氏(明星大学)
 司会討論者: 鈴木 一人氏(東京大学(学会会長))

 

■自由論題セッション

 


田村 晃生氏
「経済的威圧に対する懲罰的抑止は可能か?
        - ACIの有効性に関する議論 -」

 
伊藤 正実氏
「役務通達の改定に対する大学のみなし輸出管理の対応状況について」
 
玉置 浩平氏
「経済安全保障時代の官民関係:
外部性、ガバナンス、権力関係の視点から」
 
FRAU Francesco氏
「日本の外交・安全保障政策の進化の評価:
 2014年の防衛装備移転三原則の変遷と
 戦闘機開発への影響の分析」
 
 司会討論者:
 小野 純子氏、土屋 貴裕氏
     
     
■テーマセッション
●第1セッション <防衛装備三原則>
 

 

小木 洋人氏
「武器輸出規制の歴史的展開:
武器禁輸規範の形成と変容-

 

 

西 正典氏
「武器輸出のあり方」

 

 

司会討論者:
高野 順一氏

     
     
●第2セッション <安全保障貿易管理の新時代(座談会形式)>
 
 

 

討論者:
田川 卓司氏

 

 

討論者:
細川 昌彦氏

 

 

司会討論者:
鈴木 一人氏