第30回日本安全保障貿易学会研究大会は、新型コロナウイルスの影響で2020年10月4日(日)にOnlineにて約80名の参加者を得て開催された。午前の自由論題セッションは3名の方々から、午後のテーマセッションは2セッション、5名の方々から報告があった。
■午前の自由論題セッションでは3名の方々から報告があった。
■午後のテーマセッションでは2件のテーマをとりあげた。
●第1セッションでは、「米中技術覇権の核心 -5G- 」として2名より報告があった。
まず、矢作 潤一氏より、「5Gのキーテクノロジー解説」として、5Gの特徴について解説があった。5Gは超高速、低遅延、多数接続が大きな特徴だが、ユースケース別に性能要件を定義している。例えばeMBB(高速大容量)サービスでは大容量は要求されるが、低遅延は要求されないなど。このため、産業構造の変化への戦略的な対応が可能になる。これを実現させるためにミリ波対応など新無線技術、Massive MIMO(ビームフォーミング)、分散アンテナ技術、低遅延技術などの紹介があった。更に信頼性向上のため、新たなネットワーク技術の紹介があった。
次に大澤 淳氏より「米中覇権の相克における5G」と題し報告があり、中国の5Gにおける国家戦略を解説した。IoTを制する者が第4次産業革命を制するとの考えからDigital Silk Road(デジタル分野の優位争い)を目指し、一帯一路構想、中国製造2025、中国標準2035を推し進めている。一方、米国では重要インフラについて分野横断的に経済制裁などのサプライチェーンリスク対策をしており、日本でも政府調達や5Gに限らず、重要インフラに対し米国に同調した対策を行っている。マッキンダーの地政学では「歴史上の大戦争は、ことごとく国家間における成長の度合いの不均衡から端を発している。」とされ、注意が必要と結んだ。
●第2セッションでは「中国周辺地域の安全保障と輸出管理」とし、中国の周辺地域に対する安全保障政策に対し、台湾、香港にターゲットを絞り討論を行った。
まず、安部 憲吾氏より「台湾・香港の輸出管理制度について」として台湾、香港の輸出管理制度の概要紹介があった。台湾は2010年に輸出管理制度を整備し、以降キャッチオール規制、ICP制度導入による効率的来な法制度を構築している。一方香港は戦略物資の輸出及び輸入に対する許可制度(規制対象地域:中国を含む全地域)を採用し輸出/輸入を通しての効率化を図っていることが特徴的である。事前判定サービス、原則承認制度などユニークな輸出入者への支援制度を導入している。なお、ICP制度はあるが、登録は求めていない。
次に上久保 誠人氏より「香港民主化運動と財界」と題し、香港の民主化運動に関する報告を行った。2010年から活発化する民主化運動は2014年の「雨傘革命」、2019年逃亡犯条例反対の「水の革命」等、大規模な活動に発展した。国際世論に訴える等の「工作」と「役割分担」が成功の一因とされる。これに対し、財界は従来中国との経済的な結び付きが強まってきており「いくらもうけてもいいが、政治には口を出すな」という中国共産党に黙って従ってきた。2020年6月「香港国家安全維持法」が施行されるも財界は中国を支持している。一方米国は「香港人権・民主主義法案」を可決。「一国二制度」の監視、人権侵害に対する制裁措置を発動した。中国の対内・対外直接投資の6~7割は香港経由であるため大打撃となった。今後5G関連事業や中国先端技術企業をデカップル(切り離し)する動きが加速されると考えられる。
最後に松田 康博氏より「習近平政権の対台湾政策-硬軟両用アプローチの挫折-」と題し報告があり、台湾に対する中国の政策を過去に遡り検証した。台湾において陳水扁政権(2000 -2008)は自立を重視して繁栄を犠牲にし、馬英九政権(2008-2016)は繁栄を重視し自立を犠牲にした。蔡英文(2016 -)は自立も繁栄重視し、中国依存を減らし米日欧の関係を強化している。一方中国で、胡錦濤政権では「92年コンセサス」(「九二共識」)を掲げる馬英九政権は中間派から味方へ変わりうると認識。習近平も馬英九と経済のみならず「政治的成果」を追求したが、不公平な中台貿易による「ひまわり運動」が生じ蔡英文の政権が誕生した。そのため、「恵台政策」から、軍用機・艦の台湾周回活動海峡通過など強硬策に転換せざるを得なかった。中国の対台湾政策は、社会変動を考慮せず一方的な政策を強行するという自らが招いた失策により手詰まり状態にある、と結んだ。
今回は、自由論題セッションで3件、テーマセッションで「米中技術覇権の核心 - 5G -」、及び、「中国周辺地域の安全保障と輸出管理」の二つのテーマをとりあげた。今回は初めてのオンラインでの学会開催であったが、通常の研究大会同様、多くの参加者を得ることができ、また報告の内容、時間配分、討論に関しても対面による大会と遜色ないほど充実したものであった。報告者、司会・討論者、参加者とともに、このオンラインでの研究大会を可能にした事務局にも感謝申し上げたい。自由論題セッションはそれぞれ興味深いテーマが報告され、テーマセッションのテーマは現時点で最も関心の高いテーマであったため、多くの側面からの分析が報告された。フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。
2020年11月
日本安全保障貿易学会 会長 鈴木 一人
鈴木会長 挨拶
日時:2020年10月4日(日)
10:00~12:00 自由論題セッション
(12:40~13:00 第17回 総会)
13:00~15:00 第1セッション
15:10~17:00 第2セッション
会議形態:Webex meetingsによるOnline会議
(1)報告者:印東 宏紀氏(株式会社 日興イノベーシア)
「航空測量等のデータ活用と安全保障及び輸出管理の論点」
(2)報告者:松本 栄子氏(拓殖大学研究生)
「デジタル通貨の普及による経済制裁への影響に関する考察」
(3)報告者:竹内 舞子氏(国際連合)
「国連安保理対北朝鮮制裁-制裁違反の傾向及び実務上の課題-」
司会討論者:鈴木 一人氏(東京大学(貿易学会 会長))
● 第1セッション:<米中技術覇権の核心 -5G-> 13:00~14:45
(1)報告者:矢作 潤一氏(日本電気(株))
「5Gのキーテクノロジー解説」
(2)報告者:大澤 淳氏(中曽根平和研究所)
「米中覇権の相克における5G」
司会討論者:佐藤 丙午氏(拓殖大学(貿易学会 副会長))
● 第2セッション:<中国周辺地域の安全保障と輸出管理> 15:00~17:00
(1)報告者:安部 憲吾氏((株) 村田製作所)
「台湾・香港の輸出管理制度について」
(2)報告者:上久保 誠人氏(立命館大学)
「香港民主化運動と財界」
(3)報告者:松田 康博氏(東京大学)
「習近平政権の対台湾政策 -硬軟両用アプローチの挫折-」
司会討論者:宮脇 昇氏 (立命館大学(貿易学会 理事))
■午前 自由論題セッション
印東 宏紀氏「航空測量等のデータ活用と安全保障及び輸出管理の論点」
松本 栄子氏「デジタル通貨の普及による経済制裁への影響に関する考察」
竹内 舞子氏 「国連安保理対北朝鮮制裁-制裁違反の傾向及び実務上の課題-」
司会討論者:鈴木 一人氏
● 第1セッション:<米中技術覇権の核心 -5G->
矢作 潤一氏 「5Gのキーテクノロジー解説」
大澤 淳氏 「米中覇権の相克における5G」
司会討論者:佐藤 丙午氏
● 第2セッション:<中国周辺地域の安全保障と輸出管理>
安部 憲吾氏 「台湾・香港の輸出管理制度について」
上久保 誠人氏 「香港民主化運動と財界」
松田 康博氏 「習近平政権の対台湾政策 -硬軟両用アプローチの挫折-」
司会討論者:宮脇 昇氏