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第26回 日本安全保障貿易学会 研究大会終了

 

 第26回日本安全保障貿易学会研究大会は、約60名の参加者を得て2018年10月20日(土)に慶應義塾大学にて開催された。午前の自由論題セッション、及び、午後のテーマセッションで開催された。

 自由論題セッションでは佐藤 隆信氏が「欧州連合(EU)の武器輸出規制の現状と課題-紛争地域への輸出に関する原因の考察-」のテーマで報告があった。
イスラム国で使用されている武器の3分の1が元々EU加盟国で製造されているとの報告書を中心にEUの設定する基準と関係加盟国の基準の差を整理した。イエメン内戦を例にとり、英国、フランス、イタリア、ドイツなどの武器輸出の実態を明示し、規制の制度上の厳格さと、現実に適用される実態にはギャップが生じ得ることを指摘した。

 午後のテーマセッションでは2件のテーマをとりあげた。第1セッションでは、「技術流出に焦点を当てた投資規制に関して 」として3名より報告があった。
 まず、齋藤 孝祐氏より、「技術保護の対価―米国の投資規制と安全保障―」と題し、米国の投資におけるCFIUS(対米外国投資委員会)改革の経緯を分析し、投資における安全保障と経済・技術管理の関係性を分析した。米中貿易摩擦の問題が顕在化し、投資規制に対する問題意識が中国を念頭に拡大する中、技術保護の観点からFIRRMA(2018年外国投資リスク審査近代化法)が制定され、強化・拡大された。一方、安全保障と経済のトレードオフの関係が常に議論されており、経済的利害の優先順位、安全保障領域内部でのリスク選択がテーマであるとした。

  次に砺波 亜希氏から、「欧州の対内投資規制の動向」のテーマで報告があった。EUは「第3国からの対EU投資は成長の源」との方針のもとEUへの対内投資のみならず、EUの対外投資も積極的に行われてきた。一方、2014年のクリミア危機や中国の買収を契機に見直す動きが出てきた。デンマーク、英国への華為進出、美的集団によるKUKA買収などによる技術流出事件が頻発し安全保障の観点からスクリーニング等を実施する「持続可能、包括的でルールに基づくコネクティビティ」に重心を置く政策がとられた。一方、日本の対応も求められるが、欧米との連携・情報共有、日本企業間の情報共有等、課題は大きいと結ばれた。

  また、西村 秀隆氏から「投資規制にかかる我が国の対応」と題し、我が国の投資管理制度の説明があった。米欧の取り組みの紹介の後我が国の取り組みについて報告があった。米国ではCFIUSに加え、エマージング技術に対応するFIRRMA法を試行している。欧州ではEU理事会での調整プロセスを開始した。これに対し我が国ではH29に対内直接投資規制を制定し、審査必要な業種を拡大し、外国人投資家に事前届出を強化した。さらに、その審査の投資の変更・中止の勧告・命令ができるなどの強化を実施した。輸出管理に関してはレジーム等の協調枠組が存在するものの、投資管理についてはこの枠組みがなくループホールが生じる恐れがあり、今後国際連携の強化を推進していく。また、サイバー技術、エマージングテクノロジーに対する対応にも注力し、産業界に対しては内部情報管理体制の強化等をお願いしていく。

 第2セッションでは「エマージングテクノロジーの管理」として3件の報告があった。
最初に小野 純子氏より「米国輸出管理とエマージングテクノロジー -商務省での扱い-」と題し、米国のエマージングテクノロジーに対する対応の報告があった。1970年代から米国では、重要技術を規制していく政策が推し進められてきたが、必ずしもそうした管理が成功してきたとは言えない。2009年には、オバマ大統領により大規模な輸出規制改革が始められ、2012年よりエマージングテクノロジーをカバーする施策が決定された。2017年、2018年にはFIRRMAが、また、ECRA(輸出管理改革法)が制定され技術流出・知的財産権の不正取得、投資上の懸念事項を防止する目的で強化された。さらに、2018年8月に国防権限法2019が施行されエマージングテクノロジーに対する施策も強化された。一方、エマージング技術は各国で異なり、レジーム規制になじむのか、など国際的な議論が必要であり、今後の米国の動向に注視が必要であると結んだ。

  次に富川 英生氏より「各国の軍事イノベーションと自律システムの開発:「第3相殺戦略」を見据えた新興技術の研究開発動向」と題し、エマージングテクノロジー動向の紹介があった。米軍の自律システムの例の紹介があった。また、中国の開発研究の特徴としてリバース・エンジニアリングと民生技術の融合を目指しており、「知能化」の推進が著しいとの話をされた。さらにロシア、イスラエル、韓国の例が紹介された。そのうえで、戦略的安定性(抑止)、パワーバランスの変化など、今後国際的な懸念が発生する旨の報告があった。一方、我が国の対応としては、多くの分野で中国に遅れを取っており、グローバルな人材獲得競争でも後塵を拝している。このため、米国との協調、国家イノベーションシステム(軍産学連携)か急務だとした。

  最後に渡辺 秀明氏より「我が国の安心・安全技術について -元防衛技官の私的見解-」として報告があった。北朝鮮のミサイル開発、ロシアのステルス機・衛星攻撃ミサイルの開発、中国のステルス機・空母・極超音速ミサイル等の開発を進めている。これに対し、米国は第3オフセット戦略により、新たな装備の対抗措置を講じ、AI、ビッグデータ等の民生技術が中核的であるとした。これに対抗するため、日本では防衛技術戦略を策定し対応している。ただし、諸外国の優れている技術を積極的に取り入れ、共同研究等推進すべきと提言している。さらに、仕組みの課題として、安全保障科学技術戦略を策定し、アドバイザリーボード(日本版DSB及びDIBの設置)省庁横断的な司令塔機能の設置とこれを支えるシンクタンク(政策研究機能)が必要と提言した。

  今回は、自由論題セッションでは「EUの武器輸出規制の現状と課題」に関し報告があり、また、テーマセッションでは「技術流出に焦点を当てた投資規制に関して」、及び、「エマージングテクノロジーの管理」の二つのテーマをとりあげた。それぞれ現時点で最も関心の高いテーマであり、多くの側面からの分析が報告された。フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。

2018年12月
日本安全保障貿易学会 会長 鈴木 一人



鈴木会長 挨拶

 

会場風景

日本安全保障貿易学会 第26回 研究大会プログラム

日時:2018年10月20日(土)
    11:00~11:45  自由論題セッション
    (12:40~13:00 第14回 総会)
    13:00~15:00 第1セッション
    15:10~17:00  第2セッション
会場:慶應義塾大学(東京/三田)
    三田キャンパス 東館8階大会議室
    〒108-8345 東京都港区三田2-15-45

午前 自由論題セッション  11:00~11:45

(1) 報告者:佐藤 隆信氏(早稲田大学大学院) 11:00~11:45
   「欧州連合(EU)の武器輸出規制の現状と課題-紛争地域への輸出に関する原因の考察-」
   司会討論者:鈴木 一人氏(北海道大学:JAIST会長)


午後のテーマセッション
第1セッション <技術流出に焦点を当てた投資規制に関して>13:00~15:00

(1)報告者:齊藤 孝祐氏(横浜国大)
  「技術保護の対価-米国の投資規制と安全保障-」
(2)報告者:砺波 亜希氏(筑波大学)
  「欧州の対内投資規制の動向」
(3)報告者:西村 秀隆氏(経済産業省 安保管理政策課課長:JAIST理事)
  「投資規制にかかる我が国の対応」(資料添付省略)

  司会討論者:高野 順一氏(日本輸出管理研究所:JAIST副会長)

第2セッション:<エマージングテクノロジーの管理>      15:10~17:00

(1)報告者:小野 純子氏(CISTEC)
  「米国輸出管理とエマージングテクノロジー-商務省での扱い-」(資料添付省略)
(2) 報告者:富川 英生氏(防衛省 防衛研究所 理論研究部社会・経済研究室主任研究官)
  「各国の軍事イノベーションと自律システムの開発
  「第3相殺戦略」を見据えた新興技術の研究開発動向」
(3)報告者:渡辺 秀明氏(元防衛装備庁長官、政策研究大学院大学客員研究員)
  「我が国の安心・安全技術について -元防衛技官の私的見解-」

  司会討論者:佐藤 丙午氏(拓殖大学:JAIST副会長)


自由論題セッション:
「欧州連合(EU)の武器輸出規制の現状と課題-紛争地域への輸出に関する原因の考察-」
左より鈴木 一人氏、佐藤 隆信氏



第1セッション:「技術流出に焦点を当てた投資規制に関して」
左より  高野 順一氏、齊藤 孝祐氏、砺波 亜希氏、西村 秀隆氏

 

第2セッション:「エマージングテクノロジーの管理」
左より佐藤 丙午氏、小野 純子氏、富川 英生氏、渡辺 秀明氏