第18回日本安全保障貿易学会研究大会は、65名の参加者を得て2014年9月20日(土)に慶應義塾大学で開催された。今回は自由論題セッションの応募は無く、テーマセッションのみで開催されたが、都合で、テーマセッションのうち、第1セッションを午前に、午後に第2セッションを実施した。
午前の第1セッションでは、「ロシア・ウクライナ情勢の分析」を取り上げた。現在ウクライナ問題でロシアへの制裁が行われているが、ロシア及びウクライナの双方から見た視点から情勢を分析した。袴田氏からは「ロシアの大国主義の復活とウクライナ問題」と題してロシアからの視点での報告があった。プーチン政権の大国主義復活の背景、また、欧米は常にロシアを抑制する、などの被害者意識を基にしたロシアによるクリミア、ウクライナへの対応を報告し、更に、日露関係に関しても言及した。
一方、名越氏からはウクライナ側から見た分析が報告された。ポロシェンコ大統領がロシアに対し反発し「脱露入欧」という新しい民族意識が社会に定着するも、政府軍の負担、深まる経済危機・エネルギー不足など、ウクライナの混迷が続いている現状の報告があった。ロシアはウクライナのNATO・EUへの加入を阻止すべく長期戦を狙うかまえであり、今後も注目すべき、との報告であった。
午後の第2セッションは「防衛装備移転三原則と企業実務」と題し、今年初頭に制定された防衛装備移転三原則に関する討論を行った。風木氏より目的・制度に関して、移転三原則の具体的内容、政府内の審査体制、防衛装備の具体例などの報告に続き、これまでの防衛装備の移転管理の変遷や、二国間協定の締結状況などの説明があった。
また、森本氏より、政策的な側面での報告があった。大きくは 武器輸出管理の法的なあり方に変化はないものの、武器輸出管理制度を始めて認識(意識)したこと、 三原則の適用対象が明確化されたこと、武器輸出の課題の明確化などが政策的な意義としてある、との報告があった。
更に、鈴木氏より企業の側から見た本制度に関する報告が行われた。防衛装備移転三原則が制定され、多くの点で明確化が図られ、海外顧客にも説明しやすくなったものの、運用が開始されたばかりであり、不明確な点も多い。これらについては、多くの事例を踏まえ、広い視野で明確化すべきである。また、部分品、附属品については判断基準をさらに明確化する必要もある、旨の報告があった。
二つのテーマセッションでは、それぞれ現時点でもっともホットなテーマであり、産官学のそれぞれの側面からの分析が報告され、フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。
2014年10月
日本安全保障貿易学会 会長 佐藤 丙午
佐藤会長 挨拶
会場風景
日時:2014年9月20日(土)
10:30~12:00 第1セッション
(2014年度総会)
13:30~15:30 第2セッション
会場:慶應義塾大学 三田キャンパス 東館8階大会議室
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
第18回研究大会 ・テーマセッション
◆報告者:袴田 茂樹 氏(新潟県立大学)
「ロシアからの視点 」 資料1~7 資料8
◆報告者:名越 健郎 氏(拓殖大学 海外事情研究所)
「ウクライナからの視点」 資料1 資料2
司会:高野 順一 氏(三井物産)
討論者:新留 二郎 氏(CISTEC)
◆報告者:風木 淳氏(経済産業省)
「制度について」
◆報告者:森本 正崇氏(慶應義塾大学)
「政策的な側面」
◆報告者:鈴木 一哉氏(浜松ホトニクス)
「一企業から見た実務的な側面」
司会討論者:佐藤 丙午氏(拓殖大学)
第1セッション:「ロシア・ウクライナ情勢の分析」
左より 袴田 茂樹氏、名越 健郎氏、新留 二郎氏、高野 順一氏、
第2セッション:「防衛装備移転三原則と企業実務」
左より 風木 淳氏、森本 正崇氏、鈴木 一哉氏、佐藤 丙午氏、