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日本安全保障貿易学会 第17回 研究大会終了

 第17回日本安全保障貿易学会研究大会は、50名の参加者を得て2014年3月22日(土)に京都大学で開催された。今回は午前の自由論題セッション、午後の2件のテーマセッションで開催された。

 午前の自由論題セッションでは松本氏から「米ドル決済システム構造に見る経済制裁の有効性に関する考察-米国の北朝鮮に対する経済制裁のケーススタディ-」及び、廣瀬氏から「輸出管理の現場」と題し、2件の報告があった。前者は同時多発テロを契機として制定された、米国による各種経済制裁の内容、また、米ドル決済システム構造を背景とした資産凍結機能・有効性を分析することにより、非米国系金融機関への影響について考察がなされた。後者は輸出管理の現場の問題点と題し、現場におけるシステム・意識・周知の3つの側面について問題提起がなされ、特に小規模企業では輸出管理への意識が低い場合も散見されることなどが指摘された。これに対し報告者より、行政のDBシステムの強化、輸出管理の平易な道筋の提示等の解決策が提案された。
 午後の第1セッションでは、「東南アジアの輸出管理」のテーマを取り上げた。東南アジアに関しては日本企業の関心は高いものの、各国の輸出管理に関しては温度差があり、実態は不明な部分が多い。兼光氏からは、東南アジアの各国における輸出管理の実態の報告があった。マレーシア、シンガポールでは輸出管理に関する法制度が整備されている一方、タイ、フィリピン、インドネシア、ベトナム等では武器品目や一部の機微品目の輸出管理は実施しているものの、正式な輸出規制は未整備である。ただし、タイやフィリッピンで輸出規制の導入を検討しているとの報告があった。また、富川氏より安全保障と輸出管理の切り口で、東南アジア各国における不拡散・両用技術管理への取り組みの紹介があった。マレーシアなど、しっかりした輸出管理なくしては貿易の発展はない、と考える国がある一方、他の国では投資・ビジネス活動に規制がかかることを懸念する考えがまだ根強い。これらの国ではWMDより、紛争地域を抱えているため小火器の移転の問題が深刻である旨の報告があった。
 第2セッションでは近年関心が高くなってきている「無人化技術と輸出管理」を取り上げた。無人機器技術の武器への転用はどのような技術がターゲットなのか、また、国際的な法的位置付けはどうなっているのか、などに関し議論を行った。西山氏からは、防衛技術は民生技術との相互連関(スピンオフ・スピンオン)により、双方の技術水準向上に大きく寄与したとして、ロボット、ロケットなど無人化技術の例を紹介した。そのうえで、技術立国を目指すためには①産学官連携、②国家の技術力結集、③防衛・宇宙分野への研究費投入、が重要である旨の報告があった。また、岩本氏から、国際法の観点より報告があった。無人化兵器に適用される国際法(国際人道法、戦争法)では、兵器はもちろんであるが、その使用方法が違法か合法か、などの議論があることが紹介された。その例として無人戦闘機での軍事的利用方法、ゲーム感覚になるなどの人命軽視懸念や、将来出現が予想される致死性自律型ロボットの議論紹介があり、国際人道法(区別原則、比例原則、予防原則)の履行のために透明性の確保が重要である旨の紹介があった。更に佐藤氏より、「無人自動兵器の拡散と戦争の変化:管理の可能性と限界」と題し、無人自動兵器の変遷・使用に対する経緯の紹介があり、兵器の自動化をめぐる議論及び、無人兵器の拡散と軍備管理・軍縮に関する議論の紹介があった。更に、「拡散度」、「破壊の列度」に応じた管理のレベルが必要であるが、現時点では無人化兵器は拡散度が高く、破壊の列度は低いため、開発や配備に関する国際ルールの構築を目指すべきとの報告であった。

 二つのテーマセッションでは、それぞれ現時点で関心の高いテーマであり、産学のそれぞれの側面からの分析が報告され、フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。

2014年4月
日本安全保障貿易学会 会長 佐藤 丙午



佐藤会長 挨拶


会場風景

日本安全保障貿易学会 第17回 研究大会プログラム

日時:2014年3月22日(土)
  10:30~12:00 午前の部 自由論題セッション
  13:00~16:45 午後の部 第1セッション、第2セッション

会場:京都大学 法学部 法経済学部本館 法経11番教室
    京都市左京区吉田本町

午前の部 自由論題セッション              10:30~12:00

 ◆報告者:松本 栄子(2011年度東洋英和女学院大学大学院(国際協力研究科)修了生)
       『米ドル決済システム構造に見る経済制裁の有効性に関する考察
       -米国の北朝鮮に対する経済制裁のケーススタディ-』
 ◆報告者:廣瀬 侑子(ヒロセ貿易サービス)
       『輸出管理の現場』
 ◆司会討論者:利光 尚(安全保障貿易情報センター)

午後の部 テーマセッション
第1セッション:東南アジアの輸出管理         13:00~14:30

 ◆報告者:兼光 達也(CISTECアドバイザー)
       『東南アジアの輸出管理制度の現状』
 ◆報告者:富川 英生(防衛省防衛研究所 理論研究部 社会経済研究室 主任研究官)
       『東南アジアの安全保障』
 ◆司会討論者:高野 順一(三井物産㈱)/加藤 もえ(CISTEC)

第2セッション:無人化技術と輸出管理        14:45~16:45

 ◆報告者:西山 淳一(三菱重工業㈱)
       『デュアルユース技術の現状』
 ◆報告者:岩本 誠吾(京都産業大学)
       『国際法から見た無人化兵器』
 ◆報告者:佐藤 丙午(拓殖大学)
       『無人自動兵器の拡散と戦争の変化:管理の可能性と限界』 『資料編』 
 ◆司会討論者:森本 正崇(慶應義塾大学)


自由論題セッション
左より 利光 尚氏、松本 栄子氏、廣瀬 侑子氏



第1セッション:「東南アジアの輸出管理」
左より 高野 順一氏、加藤 もえ氏、兼光 達也氏、富川 英生氏


第2セッション:「無人化技術と輸出管理」
左より 森本 正崇氏、佐藤 丙午氏、岩本 誠吾氏、西山 淳一氏