第15回日本安全保障貿易学会研究大会は、約50名の参加者を得て2013年3月2日(土)に同志社大学で開催された。今回は午前の自由論題セッションの応募はなく、テーマセッションのみで開催された。
第1セッションでは、「日本の安全保障貿易管理の中長期的課題」と題し、輸出管理に関する産業界の抱えている種々の問題を正面から捉え、これに対する解を探っていくこととした。現在の輸出管理に関する法体系は分りにくく、該非判定ありき、が前提となっているが、本来の輸出管理はエンドユースを重視する方向に行くべきであり、わかりやすい法体系が必須となっているとの提案が押田会員よりあった。更にこれを実施する企業の立場から中野氏より報告があった。該非判定優先主義から取引(先)優先主義への転換の提案を行うと共にリスト規制の限界に関しても考察を行った。企業としては毎日の業務に直接影響するテーマであり、フロアからの真剣な質疑があり、有意義な報告であった。
第2セッションでは「産業安全保障をめぐる諸問題」を取り上げた。輸出管理と外資規制、更にM&Aや退職者を通じたビジネスに絡んだ技術流出などに関し、鳥瞰的なアプローチによる分析が村山会員よりあった。更に防衛産業の問題、経済分野にとどまらず安全保障にまで及ぶ中国に対する技術流出の問題、留学生・大学等の諸問題に対する考察があり、この解の一つとして、リスク管理を考慮したビジネススクールモデルの紹介があった。また、「現下の米中関係と投資規制」と題し、M&Aによる優秀な日本企業及び傘下企業の技術流出の問題提起が栗原氏よりあった。直接投資では米中両国が群を抜いているが、特に中国の軍事・エネルギーなども含む経済発展に注目し中国の対外投資に対する考察が行われた。
二つのテーマセッションでは、それぞれ現時点で関心の高いテーマであり、産学のそれぞれの側面からの分析が報告され、フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。
2013年3月
日本安全保障貿易学会 会長 青木 節子
青木会長 挨拶
日時:2013年3月2日(土)
13:00~14:30 第1セッション「日本の安全保障貿易管理の中長期的課題」
14:45~16:15 第2セッション「産業安全保障をめぐる諸問題」
会場:同志社大学 室町キャンパス 寒梅館 211号室
報告者:押田 努氏(一般財団法人 安全保障貿易情報センター)
「安全保障輸出管理法体系の再構築に向けた視点」
報告者:中野 雅之氏(キヤノン株式会社)
「企業における安全保障貿易管理の実際、疑問点」
司会討論者:宗行 伸太郎氏(日本機械輸出組合)
報告者:村山 裕三 氏(同志社大学)
「鳥瞰的アプローチから考える産業安全保障問題」
報告者:栗原 潤氏(キヤノングローバル戦略研究所)
「現下の米中関係と投資規制」
司会討論者:山本 武彦氏(早稲田大学)
会場風景
第1セッション:「日本の安全保障貿易管理の中長期的課題」
左より 宗行 伸太郎氏、中野 雅之氏、押田 努氏
第2セッション:「産業安全保障をめぐる諸問題」
左より 山本 武彦氏、栗原 潤氏、村山 裕三氏