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第22回 日本安全保障貿易学会研究大会終了

 

 第22回日本安全保障貿易学会研究大会は、60名の参加者を得て2016年9月24日(土)に拓殖大学にて開催された。

自由論題セッションの応募は無かったため、午後の2件のテーマセッションで開催された。第1セッションでは、「経済制裁について」と題し、3名の方々の報告を受けた。国連の北朝鮮制裁、ロシアへの経済制裁、それと、米国によるベトナム制裁の意義に関してである。
 古川氏より国連安保理対北朝鮮制裁委員会・専門家パネルメンバーとしての経験から、北朝鮮がとった制裁回避行為の実際、日本企業が巻き込まれた事案など豊富な事例が紹介された後、日本がなすべきことは何か、等の考察が行われた。すなわち、国連安保理決議2270採択後の国内法改正の早急な成立を行うべきこと、資産凍結対象の拡充、安保理決議違反者に対する制裁措置の徹底、経産省エンドユーザーリストに安保理が摘発した企業などを入れる事などが提案された。更に、東南アジア諸国へのアウトリーチの実施、貨物検査ネットワーク構築の必要性、また、企業に対してはknow your customerの更なる改善の提案がなされた。
 田畑氏より、対ロシア経済制裁の影響について報告があった。ウクライナ紛争に対し、欧米はファイナンス提供の禁止、資源開発の凍結等の制裁を行ったが、一方ロシアは農水産物の輸入を禁止するなどの逆制裁で対抗した。ロシアは石油・ガスに依存する所謂オランダ病(天然資源の輸出拡大が国内製造業を衰退させる現象)の体質であったが、欧米の経済制裁に対し、体質を改善すべく輸入代替(外国から輸入していた製品を、国内生産によって自給化すること)による製造業の強化を図っている。石油価格の低迷は数年続くとみられ、輸入代替の方向に進まざるを得ないが、輸入代替が成功するためには国内改革に依存する。但し、欧州にとってロシアは大きな市場であるため、早期の制裁解除を望んでおり、微妙なバランスで暫くは推移するであろうとの見込みを示した。
 庄司氏よりは、ベトナムの対米安全保障に関する報告があった。1995年の米越国交樹立以降、南シナ海問題等もあり、2014年は兵器禁輸の一部解禁、2016年はオバマ大統領訪越時に禁輸完全撤廃を宣言するなど、米越関係は近年はめざましい発展を見せている。ベトナムにとってはベトナム戦争の歴史的解決、和平演変(中国による体制転覆)懸念の解消、南シナ海問題対処の期待などの意義がある一方、課題も多く、装備調達の多様化・ISR(情報収集・監視・偵察)能力向上は期待できるものの、ロシア製装備、対ロ関係の維持などの問題もあり、米国との信頼醸成が必要との見解を示した。

 第2セッションでは近年若干は鈍化したものの、発展が著しい中国経済・投資の問題を取り上げた。
 真家氏からは「中国製造2025」をめぐる動きを報告があった。「中国製造」は10年ごとの製造に関する構造改革を行い、30年後に製造大国から製造強国への変貌を実現しようというもので、最初の10年の目標が「中国製造2025」である。5大プロジェクト(製造業イノベーション、スマート製造等)、10の重点分野(次世代情報産業、ハイエンド工作機械等)を定め工業基礎力向上、新型製造業、過剰生産能力の積極的な解消などを目指している。そのため、政策として各種通知、要綱、指導意見などを公表し推進している。この背景には現在、中国は世界の製造工場の位置付であるものの、人件費の高騰、アジア各国の猛追を受けており、製造力を確実なものにしておきたいという背景がある。
 風間氏より、中国のクロスボーダーM&A(他国企業に対するM&A)動向の報告があった。中国は2006年以降クロスボーダーM&Aに関する規制を緩和し、活発化させてきた。主な直接海外投資先は米欧である。投資対象産業はエネルギー、工業、ハイテク工業となり、中国製造2025への技術獲得を狙ったものと考えられる。米国に対するクロスボーダーM&A件数は中国がトップとなっており、これまで米政府は、ウエスタンデジタル社、マイクロン・テクノロジーなどへの中国の出資を阻止するなど、中国企業に対する警戒を強めている。一方、独政府は自国の安全保障の脅威にはならないとするなど、温度差がある。今後の展開としては、最終目的は兵器等の自主生産能力の獲得、その製造に必要な資機材の内製化を目指し、M&Aによる企業内技術移転などを目指していくものと思われる。
 高木氏より、米国における中国からの対内直接投資の観点からの報告があった。中国から米国への対内直接投資は、飛躍的増大を遂げてきた。同時多発テロ、金融危機での落ち込みはあるものの、2016年は過去最高額を計上している。これに対し、安全保障上の問題や、どのように進展・規制されてきたのか、中国資本の何が問題なのか、中国資本受け入れに影響を及ぼす要因は何か、等の観点から報告された。近年中国は米国へのエネルギー、半導体分野への投資を進めているが、一方米国は安全保障上から規制を強化してきている。非同盟国である中国からの投資は憂慮と共に注目されている。今後軋轢を避ける方向に進むか、また、米中投資協定(BIT)が対米投資の政治問題化にどのような影響を及ぼすかなど、注視する必要があるとのことであった。

 今回のテーマセッションでは北朝鮮、ロシア、ベトナムに対する経済制裁の影響・意義と、近年活発になってきた中国に対する投資の二つのテーマをとりあげた。それぞれ現時点でもっとも関心を集めているテーマであり、多くの側面からの分析が報告され、フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。

2016年10月
日本安全保障貿易学会 会長 佐藤 丙午



佐藤会長 挨拶


会場風景

日本安全保障貿易学会 第22回 研究大会プログラム

日時:2016年9月24日(土)
   (12:30〜12:50 2016年度総会)
   13:00〜15:00 第1セッション
   15:10〜17:10  第2セッション
会場:拓殖大学(東京都 文京区)文京キャンパス C301教室
   〒112-8585 東京都文京区小日向3-4-14
   TEL:03−3947−9295

・テーマセッション

第1セッション:<経済制裁について> 13:00〜15:000

1)報告者:古川勝久氏(前・国際連合・安全保障理事会・対北朝鮮制裁委員会・専門家パネル・メンバー)
    「北朝鮮による国連制裁回避行為と日本企業が直面する課題」
2)報告者:田畑伸一郎氏(北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センター)
    「ロシア経済に対する制裁の影響(2014〜2016年)」
3)報告者:庄司智孝氏(防衛省 防衛研究所 地域研究部米欧ロシア研究室長)
    「ベトナムの対米安全保障協力 米国による対越武器禁輸措置撤廃の意味」

第2セッション:<中国をめぐる投資の諸問題>  15:10〜17:00

1)報告者:真家陽一氏(名古屋外国語大学)
    「中国製造2025の概要と政策策定の背景」
2)報告者:風間武彦氏((株)産政総合研究機構 代表)
    「中国の最近のM&A動向と技術獲得戦略」
3)報告者:木綾氏(関西外国語大学)
   「米国における中国からの対内直接投資 ―受入れの成否に影響を及ぼす安全保障要因に関する考察―」
司会討論者:佐藤丙午氏(拓殖大学)

 


第1セッション:「経済制裁について」
左より 鈴木 一人氏、古川 勝久氏、田畑 伸一郎氏、庄司 智孝氏



第2セッション:「中国をめぐる投資の諸問題」
左より 佐藤 丙午氏、真家 陽一氏、風間 武彦氏、木 綾氏